- 内水氾濫とは。下水道の整備目標と浸水想定区域の前提は、同じ市でも3倍以上違う
2026.08.27 GISデータ基盤・地理空間AI 
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下水道部局が握っている設計の数字は、公表されていても拠点の浸水対策の判断には届いていません。令和元年東日本台風では、内水による家屋被害が全国約3万戸に達し、下水処理場16か所が浸水で処理機能を一時停止しました[1]。船橋市の雨水整備は「5年に1回程度の降雨(1時間最大雨量約50mm)を計画降雨とした施設計画」です[3]。その規模までは浸水させないという目標で、同じ市が公表する浸水想定区域の前提は1時間最大雨量153mm以上です[6]。3倍以上離れた二つの数字が、どちらも「1時間◯mm」の顔をしています。自社の拠点がいつあふれる側に回るかは、豪雨の前に分かるのでしょうか。
内水氾濫と外水氾濫、水の出どころの違い
国土交通省は都市浸水を二つに分けています。「都市に降った雨が河川等に排水できずに発生する『内水氾濫』と、河川から溢れて発生する『外水氾濫』がある」と整理し、下水道の役割を「都市に降った『内水』の排除」と説明しています[1]。
水防法はこの内水を「雨水出水」と呼び、第2条第1項で「一時的に大量の降雨が生じた場合において下水道その他の排水施設に当該雨水を排除できないこと又は下水道その他の排水施設から河川その他の公共の水域若しくは海域に当該雨水を排除できないことによる出水」と定めます[9]。
出どころが違うので、川から離れた土地でも起きます。堤防の内側にいることは、内水に対しては安全の根拠になりません。
あふれ方には二つの経路がある
先の条文が二つの場合を並べていたとおり、水が地上に出る理由は一つではありません。
一つは、下水道が流せる量を雨が超える場合です。降った雨が管に入りきらず、マンホールや側溝から地上へ戻ります。引き金は雨の強さです。
もう一つは、雨が流せる量に収まっていても排水先が使えない場合です。川や海の水位が上がると、逆流を防ぐために樋門のゲートを閉じます。東京都下水道局は、ゲートを閉めると「宅地側の雨水の行き場所がなくなります」とし、「川や海の水位が高い場合はゲートを開けられず、降雨が長く続くと宅地側で浸水する場合があります」と説明しています[2]。
この二つは、見るべき指標が違います。前者は自分の敷地の上に降る雨の強さ、後者は放流先の河川の水位です。上流でまとまった雨が降れば、自分の拠点の真上が小降りでも後者は起こり得ます。
下水道が流せる量は、自治体が数字で公表している
下水道には、何mmの雨までなら浸水させないという整備の目標があります。計画降雨と呼ばれる数字です。水準の置き方は自治体ごとに違います。
東京都下水道局は「1時間50ミリの降雨に対応できるよう、施設整備を行っています」と述べ、大規模地下街や床上浸水が集中して発生した地域では「1時間75ミリの降雨への対応を進めて」いるとしています[2]。鹿児島市は現行の下水道計画降雨を1時間66.3mm、気候変動の影響を踏まえた計画降雨を1時間70.6mmとしています[5]。
目盛りはmmだけではありません。船橋市は計画降雨を「5年に1回程度の降雨(1時間最大雨量約50mm)」と置き[3]、神戸市は「10年に1回程度の確率で発生する降雨に対して浸水が生じないことを目標」としています[4]。
確率年の表記は、守る線をどのくらい日常的な雨に置いたかを示します。神戸市の書き方が正確です。10年に1回程度の確率で発生する降雨に対して、浸水が生じないことを目標にする。その規模までは守り、超えたら浸水が生じ得る、という線の引き方です。「10年に1回浸水する」という意味ではありません。
頻度の読み方にも注意が要ります。気象庁は再現期間について「『長い期間を平均した場合に100年に一回起こる大雨』という意味で、実際にはある100年の間に二回起こることもあれば一回も起こらないこともあり得ます」と説明しています[10]。5年確率とは毎年5分の1の確率であって、5年おきに順番が回ってくることではありません。去年降ったから当分来ない、とは言えません。
1時間50mmを目標に整備された区域に1時間80mmが降れば、その線を超えます。想定外ではなく、最初から線の外側に置かれていた雨です。
ただし、計画降雨は「その雨までは浸水させない」という目標であって、達成済みという意味ではありません。鹿児島市の雨水整備率は令和6年度末で72.9%(整備済面積5,450.9ha、事業計画区域面積7,475ha)です[5]。事業計画区域の中にも、まだ計画降雨に届いていない土地が残ります。「区域内だから設計どおり流れる」とは限りません。
ハザードマップの前提降雨と混同すると何を間違えるか
ここで、よく取り違えられる二つの数字があります。どちらも「1時間◯mm」の形をしていて、意味が違います。船橋市は両方を公表しているので、同じ市の中で並べられます。
船橋市が公表する二つの降雨 何を表すか 値 下水道の計画降雨(整備の目標) ここまでの雨なら浸水させない、という設計上の目標 5年に1回程度の降雨、1時間最大雨量約50mm[3] 内水浸水想定区域の前提(想定最大規模降雨) 想定し得る最大の雨が降ったとき、どこまで浸かるか 9時間総雨量516mm、1時間最大雨量153mm以上[6] 同じ市の下水道について、1時間あたり約50mmと153mm以上です。3倍以上の開きがあります。前者は日常の整備目標、後者は最大級の雨を入れた計算です。
この開きは船橋市に限りません。藤沢市の雨水出水浸水想定区域は「1時間当たり153mmの降雨」を前提とし[7]、茨木市は「1時間最大雨量147mm、90分最大雨量185mm、24時間総雨量432mm」を対象としています[8]。いずれも1時間150mm前後で、下水道の整備目標として置かれている50〜70mm台とは別の水準です。
「うちの拠点はハザードマップで色が付いていないから、止水板は要らない」という読み方があります。区域図が答えているのは、1時間150mm前後の雨が降ったらどこまで浸かるか、という問いです。1時間60mmや80mmで足元の下水道があふれる場面は、その計算に入っていません。
区域図そのものの読み方と、色の付かない土地に何が混ざっているかは雨水出水(内水)浸水想定区域の記事に書きました。ここで足すのは、区域図より手前にある設計上限のほうです。
拠点で確かめる三つ
拠点の一覧に、次の三つを足します。
- 接続先の下水道の計画降雨と、その拠点が整備済み区域か。数字は自治体の下水道部局の公表資料にあります。整備率が100%でない自治体では、区域内であることと整備済みであることが別です。
- どちらの経路であふれるか。放流先の河川に近く、樋門やポンプに排水を頼る低地なら、自分の敷地の雨量だけを見ていても足りません。見る指標に河川水位が加わります。
- 浸水しなくても止まるもの。令和元年東日本台風では下水処理場16か所が処理機能を一時停止しました[1]。自社の敷地が浸からなくても、排水が受けてもらえなければトイレも工程排水も止まります。
1つ目を調べるとき、対象範囲の但し書きも一緒に読みます。船橋市は内水浸水想定区域の対象を「令和6年4月1日時点における船橋市公共下水道事業計画区域であり、市内全域を対象としたものではありません」と明記しています[6]。事業計画区域の外にある拠点は、計画降雨も区域図も当たらない土地です。
当社が上下水道コンサル向けに有償で提供してきた集水範囲の作成でも、地形から水の集まる先までは出せます。その先の管路が何mmの雨で満杯になるかは、下水道台帳の管径と勾配を突き合わせないと出ません。
計画降雨そのものも、気候変動を織り込んで引き上げられつつあります。鹿児島市が現行66.3mmとは別に70.6mmを掲げているのは、その動きです[5]。引き上げた水準に施設が追いつくまでの間は、超過する雨のほうが先に来ます。
止水板や受変電設備のかさ上げを何年後の予算に置くかは、この引き金の数字と自社拠点の雨量記録を並べれば議論できます。拠点の自治体が計画降雨を公表しているなら、守る線の位置は豪雨の前に分かります。分かる数字を見ていなかった、という説明にはなります。
参考・一次ソース
- 国土交通省「下水道による浸水対策」(内水氾濫・外水氾濫の定義、令和元年東日本台風の内水被害約3万戸・下水処理場16か所の機能停止)
- 東京都下水道局「浸水への備えを万全に!」(整備水準1時間50ミリ・重点地区75ミリ、樋門のゲートと排水不能)
- 船橋市「公共下水道(雨水)整備について」(計画降雨 5年に1回程度・1時間最大雨量約50mm)
- 神戸市「雨水管理総合計画(雨水管理方針)」(10年に1回程度の確率で発生する降雨を目標)
- 鹿児島市「公共下水道(雨水)」(計画降雨1時間66.3mm、気候変動考慮70.6mm、整備率72.9%)
- 船橋市「内水(雨水出水)浸水想定区域について」(9時間総雨量516mm・1時間最大雨量153mm以上、対象は公共下水道事業計画区域)
- 藤沢市「水防法に基づく雨水出水浸水想定区域を公表します」(想定最大規模降雨1時間153mm)
- 茨木市「雨水出水浸水想定区域の指定及び公表について」(1時間最大雨量147mm、90分最大雨量185mm、24時間総雨量432mm)
- e-Gov法令検索「水防法(昭和24年法律第193号)」第2条第1項
- 気象庁「極端現象発生頻度マップ 確率降水量に関するQ&A」(再現期間の読み方)
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