- 雨水出水(内水)浸水想定区域とは。区域外を安全と読むと拠点の浸水対策を外す
2026.08.20 GISデータ基盤・地理空間AI 
-
専門部署にたまった地図やデータは、部署をまたいだ判断に使える形へ直して初めて値段が付きます。国土交通省が国土数値情報で公開する雨水出水(内水)浸水想定区域データ(A51)も、そのままでは素材です。2025年度版でダウンロードできるのは22都道府県分で、前年は9都道府県分。残る25都道府県分はまだ載っていません。
この地図を拠点のリスク判定にそのまま使うと、色の付いていない土地を「浸からない土地」と読んでしまいます。止水板や受変電設備のかさ上げを「区域外だから不要」と落とし、そのあと内水で操業が止まれば、削った工事費では釣り合いません。公開された雨水出水(内水)浸水想定区域は、自社拠点のリスク判定にどこまで使えるのでしょうか。
水防法が指定を命じているのは、どの排水施設か
雨水出水(内水)は、川の水があふれる外水氾濫と経路が違います。降った雨を下水道や排水路が流しきれず地上へあふれる現象で、川から離れた市街地でも起きます。
水防法第14条の2は、都道府県知事と市町村長に対し、想定最大規模降雨により排水施設に雨水を排除できなくなった場合などに浸水が想定される区域を「雨水出水浸水想定区域として指定するものとする」と定めます。指定したときの公表義務は同条第4項にあります。
ただし条文は、対象を国土全体ではなく「当該都道府県が管理する」「当該市町村が管理する」排水施設と書き、4種類を列挙します。水位周知下水道、下水道法第25条の2の浸水被害対策区域内と特定都市河川流域内の公共下水道等、国土交通省令の基準に該当するものです。
この対象は令和3年の水防法改正で広がりました。茨木市は「令和3年の水防法の一部改正に伴い、下水道による浸水対策を実施する全ての地方公共団体に、想定最大規模降雨による雨水出水浸水想定区域の指定が必要となりました」と説明しています。指定は義務ですが、作業は自治体ごとに進みます。A51の収録も1年で9都道府県分から22都道府県分へ増えました。指定が済んでから国土数値情報へ渡るまでにも時間差があります。
重ねた区域図は、同じ色を同じ意味で読めるか
複数の自治体分をそろえて一枚に重ねると、同じ浸水深の色が同じ条件で塗られたように見えます。前提にした雨は、自治体ごとに違います。
自治体 前提とした想定最大規模降雨 対象範囲の記載 大阪府茨木市 1時間最大147mm、24時間総雨量432mm(平成27年7月に茨木観測所で観測された降雨波形を引き伸ばし) 公共下水道等の排水施設 神奈川県藤沢市 1時間当たり153mm 水防法第14条の2第2項に基づき指定 千葉県船橋市 9時間総雨量516mm、1時間最大雨量153mm以上 令和6年4月1日時点の公共下水道事業計画区域。市内全域ではない 総量も継続時間も、元にした観測記録も違います。並べたところで、同じ強さの雨を表した図ではありません。
区分もずれます。国土数値情報のページには、公開する浸水深の区分は原則として「水害ハザードマップ作成の手引き」の区分(詳細版)を基にしているため、都道府県が公開している区域図の区分と異なる場合がある、と書かれています。
A51のポリゴンが持つ属性は5つだけです。都道府県名と都道府県コード、市町村名と市町村コード、浸水深の区分。前提の雨も、対象の下水道計画区域も、公表年月も入っていません。位置正確度は実寸25mとされています。
だから「浸水深50cm以上の拠点には止水板」のような社内基準を色だけで決めると、自治体をまたいだ拠点比較で条件がそろいません。敷地の境界ぎりぎりを色で判定するのも、25mの幅では無理があります。
色の付いていない場所には何が混ざっているか
では、色の付いていない土地をどう扱うか。ここには性質の違う三つが同居します。
- 指定の対象外:条文が列挙する排水施設に当たらない範囲。船橋市は対象を「令和6年4月1日時点における船橋市公共下水道事業計画区域であり、市内全域を対象としたものではありません」と明記しています。
- 未公表、またはA51に未収録:指定と公表が済んでいない範囲と、自治体は公表したが国土数値情報にまだ入っていない範囲。A51は自治体から提供されたデータを整備したもので、載っていないことと指定されていないことは違います。2025年度版に無い25都道府県分は、自治体の公表ページで確かめます。
- 前提を超えた雨:指定済みでも、前提と違う降り方なら外へあふれます。藤沢市は「この浸水想定区域に指定されていない区域においても浸水が発生する場合」があると注記し、国土数値情報も「実際の雨水出水(内水氾濫)浸水区域はこの雨水出水(内水)浸水想定区域よりも広い場合があります」と書いています。
「うちの拠点は区域外だから内水は関係ない」という読み方があります。その理由は「区域外は浸水しないと判定されたから」ではありません。区域外が示すのは、その自治体の前提の雨で計算して浸水が出なかったか、そもそも計算されていないかのどちらかです。後者なら、その土地は評価されていないだけです。
同じ読み違えは不動産取引でも起きます。宅地建物取引業法施行規則は令和2年8月28日施行の改正で、水防法に基づく水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップにおける対象物件の所在地を重要事項説明に加えました。国土交通省の報道発表は、浸水想定区域外であっても水害リスクがないと誤認されないよう配慮することを求めています。
拠点台帳に何を書き足すか
拠点の一覧に、次の三つを列として足します。
- 区域内、区域外、未確認の三分。A51に無い拠点を区域外と同じ欄に入れない。分けるだけで、確かめていない拠点が名簿に浮かびます。
- 前提降雨と公表年月。A51のポリゴンにないので、自治体の公表ページから取って手で書きます。拠点が複数の自治体にまたがる会社ほど、ここの差が大きくなります。
- 未確認・対象外の拠点の当たりづけ。標高と傾斜から雨水の集まる先を計算し、低くて水がたまりやすい場所を絞ります。手順は道路冠水の記事に書いたとおりです。
そのうえで、止水板、受変電設備のかさ上げ、書類とサーバの保管階を、どの拠点から手当てするか決めます。区域図を捨てる話ではありません。避難計画にも重要事項説明にも、法に基づく区域図が土台として要ります。足りないのは、色の付かない場所を三つに分けて扱う手間です。
2025年度版で埋まったのは22都道府県分でした。残りの土地について、拠点台帳が「安全」ではなく「未評価」と書けているか。次の豪雨で守れる拠点は、そこで変わります。
参考・一次ソース
- 国土交通省 国土数値情報「雨水出水(内水)浸水想定区域データ」(A51、2025年度版)
- e-Gov法令検索「水防法(昭和24年法律第193号)」第14条の2
- 国土交通省「不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化」(令和2年7月17日公布、8月28日施行)
- 茨木市「雨水出水浸水想定区域の指定及び公表について」
- 船橋市「内水(雨水出水)浸水想定区域について」
- 藤沢市「水防法に基づく雨水出水浸水想定区域を公表します」
■お問い合わせ
拠点ごとに区域内と区域外、未確認を分け、自治体ごとの前提降雨をそろえて比較できる形にしたい。区域図のない土地を地形から先に絞りたい。そうした浸水リスクの棚卸しと拠点台帳への落とし込みは、アハクラフトにご相談ください。